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トランプがツイッターで北朝鮮に脅しをかける一方で、金正恩の真意がどこにあるのかは、まるで表に出てこない。北朝鮮の外交官だった韓氏が、日本メディアのインタビュー取材に初めて口を開く。

■金正恩、恫喝外交の狙い

「アメリカと北朝鮮が一触即発になってきていますが、日本も対岸の火事ではいられません」

こう警告するのは、元北朝鮮の外交官で、'15年1月に韓国に亡命した韓進明氏(43歳)だ。金正恩外交について知り尽くした韓氏が今回、亡命後、初めて日本メディアの取材に応じた。

まず、金正恩政権がなぜあのような恫喝外交を行うのかを、考えてみる必要があります。

その目的は、ただ一つ。すなわち、アメリカとの2国間交渉を行いたいからです。金正恩政権が見据えているのは、トランプ政権だけなのです。

金正恩だって、単なる暴君ではありません。自分たちの行為が、一歩踏み誤ると、悪夢をもたらすことは自覚しています。

だからこそ私は、北朝鮮がいますぐ6度目の核実験を強行することはないと見ています。

トランプ政権は周知のように、今年1月20日に始動したばかりで、まだ海の物とも山の物とも知れない。それなのに、北朝鮮のほうから大きく動くことはありません。

特に、金正恩政権にとって、核実験は「最終カード」です。いずれ核実験に踏み切るとは思いますが、それは今後、最も効果的な時機を見計らってということになるでしょう。

〔PHOTO〕gettyimages

それよりも、まずは首都・平壌で派手な軍事パレードを行って、新型ミサイルを誇示する。そしてそのミサイルの発射実験を、4月25日の朝鮮人民軍85周年に向けた「祝砲」として、強行する可能性が高い。

その新型ミサイルは、ICBM(大陸間弾道ミサイル)ではありません。ICBMの発射実験を行うと、万が一、アメリカ大陸、もしくはその近海に着弾したら、取り返しのつかないことになるのは自明の理です。

そのため、ICBMの発射実験は封印し、その代わりに、以前発射したことがあり、現在急ピッチで改良を加えている中距離ミサイルを撃つわけです。

北朝鮮では、私が所属していた外務省も、ミサイル実験や核実験に、間接的に関与していました。もし実験したら、どの国がどのような反応を示すかといったことを、上層部に報告していました。

金正恩委員長は、そういったことをすべて勘案した上で、決断するわけです。

■金正恩はカネが欲しい

私が日本人に知っておいてほしいのは、今後、北朝鮮のミサイルの性能が上がっていくにつれて、日本の危険度が増すということです。

すなわち、いまは北朝鮮の近海に落下しているようなミサイルが、今後は日本列島のすぐ手前に着弾したり、もしくは日本列島を越えて着弾するようになるということです。

さすがに日本列島を標的にして発射実験を行うことはないでしょう。しかしミサイルというのは、どこに落下するか予測が立たないものです。

その意味では、ある日突然、北朝鮮のミサイルが、日本の都市部などを直撃するかもしれない。日本はしっかりと、その備えをしておくべきです。

ただ金正恩自身は、日本との関係修復を切望しています。なぜなら、日米韓3ヵ国の連携を断ち切りたいからです。

現状を見ると、アメリカ、日本、韓国の中で、最も北朝鮮との関係を修復しやすいのは日本なのです。

金正恩という指導者は、おそらく日本人が想像する以上に、経済発展に並々ならぬ意欲を抱いています。だから4月13日には、80棟の高層マンションなどが並ぶ黎明通りの竣工セレモニーを華々しく挙行したのです。

こうした点は、父親の故・金正日総書記と、まったく違います。そのため金正恩としては、一日も早く日本との国交正常化を果たして、日本から多額の経済援助を得たいのです。

私は、金正恩は南北赤化統一(北朝鮮による半島統一)を考えていないと見ています。金正恩が望むのは、自分の政権を維持することだけで、そのためには経済発展が必須なのです。

金正恩の心情を察すると、4月6日にアメリカ軍がシリアの空軍基地を初めて空爆した時、次は自国を空爆されるかもしれないという不安よりは、むしろホッとしたことでしょう。再びアメリカの視線が中東へ向かってくれると思ったに違いないからです。

そのため、オーストラリアへ向かっていた空母カールビンソンが急遽、北朝鮮に向かい始めたことは、意外だったでしょう。いずれにしても、北朝鮮は何とかして、アメリカとの2国間交渉に持ち込みたいのです。

だが、アメリカがなかなか振り向いてくれない中で、北朝鮮は世界各国に「橋頭堡」を築こうとしています。その先兵役を担っているのが、われわれ外交官です。

例えば、東南アジア地域では、2月13日の金正男暗殺事件で話題になったマレーシアの北朝鮮大使館が、橋頭堡になっています。私は'14年12月まで、ベトナムの北朝鮮大使館に勤めていたので、事情をよく知っています。

'11年12月に死去した金正日総書記は、「中国に対する依存度を減らして行くように」との遺訓を残しました。それを受けて金正恩委員長は、東南アジア外交を重視するよう外務省に命じていました。

一例を示すと、以前は東南アジアの物品を輸入する際、必ず大連港を経由して北朝鮮に運んでいました。それがいまでは、ベトナムに一度集めてから、貨物船で直接、北朝鮮に運んでいます。そのためハノイの北朝鮮大使館には、陸海運送代表部を置いています。

■処刑に怯える外交官たち

北朝鮮の外交官は、金正恩委員長を偶像崇拝する洗脳教育を、徹底的に受けさせられます。そのため私も、自分が韓国に亡命するまでは、金委員長は偉大な存在なのだと、純粋に信じていました。

いまからちょうど5年前に、金正恩体制が本格始動した際、「外務省指針書」が下達されました。そこには、「即時接手、即時執行、即時報告」というスローガンが書かれていました。要はモタモタせず、直ちに仕事を処理しろということです。

特に、金正恩委員長から指示が来た場合には、その日のうちに執行して報告しなければなりません。

かつて金正日総書記は、「外務省は海外に勤務する軍隊だ」と言っていました。そのため金正日時代に、外務省は軍隊式の組織に変わりました。

それがいまの金正恩時代になってからは、軍隊式に加えて、自分のちょっとしたミスや親属関係が、命取りになるようになったのです。そのため先代の時とは、緊張感がまるで違います。

例えば、'13年12月に、金正恩委員長は叔父の張成沢党行政部長を処刑しました。その直後、北京の北朝鮮大使館で、各国駐在大使の会議を開くと通知して、大使たちを北京に集めました。

その上で、張成沢の長兄の次男・張勇哲駐マレーシア大使と、張成沢の姉の夫・全英鎮駐キューバ大使だけを、国家保衛省が引っ捕らえて、平壌に連行したのです。

両大使はその後、家族もろとも処刑されました。北京では大使会議など開かれず、駐ベトナム大使はすぐにハノイに戻って来て、私たちに恐怖の体験を語りました。

今年2月13日に起こった金正男暗殺事件に関しても、私にはピンとくることがありました。

当日、クアラルンプール空港にいたとされる4人の実行犯の中の1人、リ・ジヒョン書記官は、ベトナムの北朝鮮大使館で私の前任者で、よく知っています。彼は一度、ベトナム大使館時代に、視聴が禁止されている韓国ドラマにハマりました。

それを、大使館の国家保衛省員が発見。平壌でベトナム代表団の通訳が足りないからという口実で、リ書記官を一時帰国させ、政治犯収容所送りにしたのです。おそらく、今回の犯行を成功させることで、その罪を贖わせたのだと思います。

ともあれ、金正恩からいったん暗殺命令が下されれば、われわれは地球の裏側まで行ってでも、対象者を暗殺しなければなりません。

いまの金正恩は、外部がありのままに見えない状況に陥っています。

例えば、金正恩は平壌駐在の中国大使に、一度も接見したことがありません。そのことによって、自分が中国よりも偉い存在だと勘違いしている。

確かに政治的には、北朝鮮は中国から、完全に独立していますが、経済的には大きく依存しています。中国との関係をぞんざいにしてはならないのに、アメリカとさえ2国間交渉できれば、道は開けると思っている。

ところがそのアメリカは、ますます金正恩政権に冷淡になっているのだから、皮肉なものです。

韓進明(ハン・ジンミョン)
1974年平壌生まれ。金日成総合大学卒業後、軍歴を経て外務省入省。駐ベトナム北朝鮮大使館勤務時の2015年1月に韓国に亡命

「週刊現代」2017年4月29日号より
http://news.livedoor.com/article/detail/12978928/